管理会計とは? 導入するメリット・デメリットとシステムを選ぶポイントを解説
目次
管理会計とは? 導入するメリット・デメリットとシステムを選ぶポイントを解説
(新任予算ご担当者様向け)
管理会計は、制度会計に縛られることなく企業の内部意思決定と業績評価のために柔軟に定義づけられる企業独自の会計システムであり、予実管理、原価管理、経営分析、資金繰り管理などを通じて経営効率の向上に寄与します。その導入には、経営判断の精度向上やコスト削減といったメリットがある一方で、業務負担の増加や導入コストといった課題も伴います。本記事では、管理会計の基本概念と特徴、導入する場合のメリット・デメリットについて詳しく解説します。
1 管理会計とは
管理会計は、企業の内部意思決定と業績評価のために用いられる会計システムです。経営者や管理者が経営判断を行う際に必要な情報を提供し、企業の戦略立案や経営効率の向上に貢献します。財務会計と連携はしつつも、法的な規制がなく、各企業の特性に応じて柔軟に設計・運用されます。
会計の基本概念を理解し、管理会計の本質を把握することは、効果的な経営管理のために不可欠です。以下では、会計の基本と管理会計の特徴について詳しく説明します。
そもそも会計とは
会計は、企業や公的機関の経済活動を数値化し、記録・測定・伝達するプロセスです。具体的には、金銭や物品の取引を体系的に記録し、その結果として得られる収支や財務状況を利害関係者に報告することを指します。日本では、「公正なる会計慣行」が会計基準の基礎となっており、これに基づいて会計処理が行われます。
会計は主に3つの分野に分類されます
- 財務会計:外部の利害関係者向けの報告
- 管理会計:内部の経営者向けの情報提供
- 税務会計:税務申告のための会計処理
これらの会計分野は、それぞれ異なる目的と対象を持ちながら、企業の経済活動を多角的に捉える役割を果たしています。
管理会計の特徴
管理会計は、経営者が企業経営を効果的に行うために必要な情報を集約し、分析する会計システムです。財務会計が過去の業績を報告することに主眼を置くのに対し、管理会計は現在の状況分析と将来の意思決定支援に焦点を当てています。
管理会計の主な特徴は以下の通りです
- 内部利用目的:経営者や管理者のための情報提供
- 柔軟性:法的規制がなく、企業のニーズに応じてカスタマイズ可能
- 将来志向:予算管理やシミュレーションなど、将来の計画立案に活用
- 詳細な分析:部門別、製品別、顧客別などのセグメント分析が可能
管理会計は、経営者が戦略的意思決定を行う際の重要な情報源となり、企業の競争力向上と持続的成長に寄与します。
2 財務会計・税務会計との違い
企業会計は前述の通り、財務会計、管理会計、税務会計の3つに分類されます。これらはそれぞれ異なる目的と特徴を持ち、企業の経済活動を多角的に捉える役割を果たしています。管理会計は他の2つとは大きく異なる特性を持っており、その違いを理解することは効果的な経営管理のために重要です。以下では、管理会計と財務会計・税務会計との主要な相違点について詳しく説明します。
財務会計との違い
財務会計は、企業の経営状況や財務状態を数値化し、外部の利害関係者に報告することを主な目的とします。具体的には、株主、投資家、債権者、取引先などに対して、企業の財政状態、経営成績、キャッシュ・フローの状況を開示します。財務会計は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP)や国際財務報告基準(IFRS)に準拠して行われ、客観性と比較可能性が重視されます。
財務会計では、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュ・フロー計算書(C/F)などの財務諸表が作成されます。これらの財務諸表は、企業の過去の業績を反映し、主に事後的な報告に用いられます。財務会計の情報は、企業価値の評価や信用度の判断に利用され、資本市場における重要な役割を果たしています。
一方、管理会計は内部の意思決定に焦点を当て、より詳細かつ柔軟な情報を提供します。財務会計が過去指向であるのに対し、管理会計は現在と将来に重点を置いています。
税務会計との違い
税務会計は、企業の課税所得を算定し、適切な税額を計算することを目的とした会計システムです。税務会計は、法人税法や所得税法などの税法に基づいて行われ、課税当局(税務署)への報告を主な対象としています。
税務会計では、財務会計上の利益から出発し、税法上の規定に従って各種の調整を行います。例えば、交際費や寄付金の損金算入限度額の計算、減価償却費の計算方法、引当金の取り扱いなどが挙げられます。これらの調整により、課税所得が算出され、それに基づいて納付すべき税額が決定されます。
税務会計の特徴として、保守主義の原則が強く働き、収益の認識は遅く、費用の認識は早めに行われる傾向があります。また、税務申告書の作成や税務調査への対応も税務会計の重要な役割です。
管理会計は、税務会計とは異なり、法的規制に縛られず、経営者の意思決定に有用な情報を提供することに主眼を置いています。
管理会計は義務ではない
財務会計と税務会計は、会社法や法人税法などの法律によって作成が義務付けられています。これらは外部報告や税務申告のために必要不可欠な会計システムです。一方、管理会計には法的な義務はありません。
管理会計の実施は、あくまで企業の自主的な判断に基づいています。その目的は、経営者や管理者が適切な意思決定を行うために必要な情報を提供することにあります。管理会計では、企業の特性や経営者のニーズに応じて、様々な分析手法や報告形式を柔軟に採用することができます。
例えば、部門別や製品別の収益性分析、原価管理、予算管理、投資評価などが管理会計の典型的な活用例です。これらの情報は、戦略立案、リソース配分、業績評価などの経営判断に直接的に活用されます。
管理会計は法的義務ではありませんが、企業の競争力向上と持続的成長のために不可欠なツールとして、多くの企業で積極的に導入されています。経営環境の変化が激しい現代において、管理会計の重要性はますます高まっていると言えるでしょう。
3 管理会計を実施するメリット
管理会計の実施は、企業経営に多くの利点をもたらします。主要なメリットとして、以下の点が挙げられます
- 経営を客観的に評価できる
- 経営者が見たいセグメントごとに分析できる
- コスト削減につながる
- 資金繰りを把握することができる
これらのメリットは、企業の意思決定プロセスを改善し、経営効率を向上させる上で重要な役割を果たします。以下、各項目について詳細に説明します。
経営を客観的に評価できる
管理会計の実施により、企業活動を財務諸表などの数値で表現することで、経営状況を定量的かつ客観的に評価することが可能となります。具体的には、収益性指標(ROI、ROA、ROEなど)、効率性指標(総資産回転率、棚卸資産回転率など)、安全性指標(流動比率、自己資本比率など)を用いて、多角的な分析が行えます。
これらの客観的指標は、経営判断の場面で経営層の主観的評価を補完し、より合理的な意思決定を支援します。例えば、新規事業への投資判断において、NPV(正味現在価値)やIRR(内部収益率)といった指標を用いることで、プロジェクトの経済的価値を客観的に評価できます。
さらに、BSC(バランスト・スコアカード)のような非財務指標も含めた総合的な業績評価システムを構築することで、短期的な財務指標だけでなく、長期的な企業価値創造につながる要因も考慮した経営評価が可能となります。
経営者が見たいセグメントごとに分析できる
管理会計による分析を通じて、企業は事業単位以外にも、サービスごと、製品ごと、地域ごとなどの様々なセグメント情報をまとめ、詳細に分析することが可能になります。このセグメント別分析は、財務諸表だけでは見えてこなかった経営課題を発見する上で非常に有効です。
例えば、製品ラインごとの貢献利益分析を行うことで、どの製品が企業の利益に最も貢献しているかを明確にできます。これにより、経営資源の最適配分や不採算製品の改善・撤退判断などの戦略的意思決定を支援します。
また、ABC(活動基準原価計算)を用いることで、より精緻な原価配賦が可能となり、各セグメントの真の収益性を把握できます。これは特に、間接費の割合が高い企業や、多様な製品・サービスを提供する企業にとって有用です。
さらに、地域別や顧客別のセグメント分析は、マーケティング戦略の立案や顧客プロファイリングにも活用でき、より効果的な営業活動につながります。
コスト削減につながる
管理会計による原価管理は、原材料費・人件費などの詳細なコスト構造を把握し、効果的なコスト削減策を立案・実行する上で不可欠です。具体的には、標準原価計算を用いて、実際原価と標準原価の差異分析を行うことで、コスト超過の原因を特定し、改善策を講じることができます。
例えば、原材料費の差異分析により、購買価格の変動や使用量の非効率性を把握し、サプライヤーとの交渉や生産プロセスの改善につなげることができます。また、CVP分析(Cost-Volume-Profit分析)を活用することで、損益分岐点を明確にし、固定費削減や変動費率の改善など、より戦略的なコスト管理が可能となります。
さらに、ABM(活動基準管理)を導入することで、付加価値を生まない活動を特定し、業務プロセスの最適化やコスト構造の改革を推進できます。これは特に、間接部門のコスト削減に有効です。
資金繰りを把握することができる
管理会計の実践により、企業は資金調達と資金運用を効果的に管理し、適切な資金繰りを確保することが可能になります。具体的には、キャッシュ・フロー計算書の詳細分析や、資金繰り表の作成・活用を通じて、短期的・長期的な資金の流れを把握し、適切な財務戦略を立案できます。
例えば、運転資本管理において、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を分析することで、在庫回転率の改善や売掛金回収期間の短縮、買掛金支払期間の最適化など、具体的な施策を講じることができます。
また、設備投資計画の評価においては、DCF法(割引キャッシュ・フロー法)を用いて、投資の経済的価値と資金需要を同時に評価することが可能です。これにより、成長投資と財務健全性のバランスを取りながら、中長期的な資金計画を策定できます。
さらに、資金調達手段の多様化(エクイティ・ファイナンス、デット・ファイナンス、ハイブリッド・ファイナンスなど)を検討する際にも、管理会計情報は重要な判断材料となります。財務レバレッジの最適化や、WACC(加重平均資本コスト)の最小化など、より高度な財務戦略の立案・実行を支援します。
4 管理会計を実施するデメリット
管理会計の実施は多くのメリットをもたらす一方で、いくつかのデメリットも存在します。主な課題として、以下の点が挙げられます
- コスト・時間がかかる
- 精度が低いとかえって混乱する
これらのデメリットは、適切な経営管理ソフトウェアの導入によって軽減または回避できる可能性があります。しかし、ソフトウェア導入にも初期投資やトレーニングコストが発生します。以下、各デメリットについて詳細に説明します。
コスト・時間がかかる
管理会計の実施には、追加的な業務負担とそれに伴うコスト増大というデメリットが存在します。具体的には、経理担当者を中心とした業務量の増加、データ収集・分析のための時間と労力の投入、さらには専門的なスキルを持つ人材の確保などが必要となります。
例えば、部門別損益計算書の作成には、間接費の配賦基準の設定や、部門間取引の把握など、通常の財務会計では不要な作業が発生します。また、原価計算においても、より詳細な原価データの収集や、活動基準原価計算(ABC)の導入などを行う場合には、さらに業務の複雑性が増大します。
これらの追加業務は、単に作業量の増加だけでなく、高度な分析スキルや管理会計の知識を要求するため、既存の経理スタッフでは対応が困難な場合も多く、新たな人材の採用や外部コンサルタントの起用が必要となることもあります。
また手作業による集計は多大な時間を要します。タイムリーでない集計では、正しい判断が難しくなります。
正確な数値集計や時間短縮のためには管理会計システムの導入や維持にかかるIT投資も必要になってきますがそのコストも無視できません。ERPシステムやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどの導入には、ライセンス料、カスタマイズ費用、保守費用などが発生し、導入を検討する企業規模等によっては大きな負担となる場合があります。
これらのコスト増大は、管理会計から得られる便益を相殺してしまう可能性があるため、費用対効果を慎重に検討する必要があります。特に、企業規模や業種に応じた適切な管理会計の範囲と深度を見極め、段階的な導入を検討することが重要です。
精度が低いとかえって混乱する
管理会計の精度が低い場合、誤った情報に基づく意思決定を招き、かえって経営を混乱させる危険性があります。この問題は、データの信頼性、分析手法の適切性、解釈の妥当性など、複数の要因から生じる可能性があります。
まず、データの信頼性に関しては、入力ミスや不適切なデータ処理により、基礎となる数値自体が不正確になる可能性があります。例えば、部門間取引の相殺漏れや、原価の誤った配賦などにより、セグメント別の損益が歪められる可能性があります。
分析手法の適切性については、企業の実態に合わない手法を採用することで、ミスリーディングな結果を導く危険性があります。例えば、固定費と変動費の区分が適切でない場合、CVP分析の結果が現実と乖離し、誤った価格戦略につながる可能性があります。
解釈の妥当性に関しては、管理会計情報の利用者が、数値の持つ意味や限界を正しく理解していないと、過度に単純化された判断や、重要な要因の見落としが生じる可能性があります。例えば、ROIのみに基づいて投資判断を行うと、長期的な競争力や市場ポジションといった定性的要因を無視してしまう危険性があります。
これらの問題は、経営者の意思決定を誤らせるだけでなく、組織内の信頼関係を損なう可能性もあります。例えば、不適切な業績評価指標に基づく人事評価は、従業員のモチベーション低下や部門間の対立を引き起こす可能性があります。
したがって、管理会計システムの導入に際しては、単にツールを導入するだけでなく、データの品質管理、適切な分析手法の選択、利用者への教育・トレーニングなど、総合的なアプローチが不可欠です。また、定期的な監査や外部専門家によるレビューを通じて、システムの精度と有効性を継続的に検証することが重要です。
5 管理会計の主な業務
管理会計の主な業務は、企業の経営意思決定を支援するための情報提供プロセスを包含しています。このプロセスは主に以下の4つの要素から構成されます:予実管理、原価管理、経営分析、資金繰り管理。これらの業務は相互に関連し、企業の総合的な経営管理システムを形成します。各業務の詳細は以下の通りです。
予実管理
予実管理は、企業の予算と実績を比較・分析し、経営計画の進捗状況を把握する重要な管理会計プロセスです。具体的には、年間予算や月次予算を設定し、定期的に実績との差異を分析します。この過程で使用される主要なツールには、予算実績比較表や差異分析レポートがあります。
予実管理の目的は、計画からの乖離を早期に発見し、必要な是正措置を講じることです。例えば、売上高が予算を下回っている場合、その原因(市場環境の変化、競合他社の動向など)を分析し、マーケティング戦略の修正や費用削減策の実施などの対応を検討します。また、予実管理は次期の予算策定にも重要な情報を提供し、PDCAサイクルの基盤となります。
原価管理
原価管理は、製品やサービスのコストの適正性を評価し、継続的な改善を図るプロセスです。主な目的は、品質を維持しながらコストを最小化し、利益率を向上させることです。原価管理の手法には、標準原価計算、直接原価計算、ABC(活動基準原価計算)などがあります。
例えば、標準原価計算では、理想的な生産条件下での原価(標準原価)を設定し、実際原価との差異を分析します。この差異は、価格差異(材料費の変動など)と数量差異(生産効率の変化など)に分解され、改善策の立案に活用されます。また、ABCを用いることで、間接費の配賦をより精緻化し、製品やサービスの真の収益性を把握することが可能になります。
経営分析
経営分析は、企業活動を多角的に評価するプロセスで、主に「収益性」「安全性」「生産性」「成長性」の4つの観点から行われます。この分析には、財務諸表データや非財務情報が活用されます。
収益性分析では、ROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)などの指標を用いて、企業の利益創出能力を評価します。安全性分析では、流動比率や自己資本比率などを通じて、企業の財務健全性を判断します。生産性分析では、労働生産性や設備稼働率などを分析し、経営資源の効率的利用を評価します。成長性分析では、売上高成長率や市場シェアの推移などから、企業の将来性を予測します。
これらの分析結果は、経営戦略の立案や投資判断、リスク管理などに活用されます。また、同業他社との比較(ベンチマーキング)を通じて、自社の強みと弱みを明確化することも可能です。
資金繰り管理
資金繰り管理は、企業の入出金を適切に管理し、財務の安定化と信用力の向上を図るプロセスです。主な目的は、必要な時に必要な資金を確保し、余剰資金を効率的に運用することです。
具体的な手法としては、キャッシュ・フロー計算書の作成と分析、資金繰り表の活用、運転資本管理などがあります。例えば、キャッシュ・フロー計算書を通じて、営業活動、投資活動、財務活動それぞれのキャッシュ・フローを把握し、資金の源泉と使途を明確化します。また、資金繰り表を用いて、短期的な入出金予測を行い、一時的な資金不足や過剰を回避します。
効果的な資金繰り管理は、金融機関との良好な関係構築や、機動的な投資判断、さらには企業価値の向上にもつながります。また、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の短縮など、より高度な財務戦略の立案・実行にも活用されます。
まとめ:多様なニーズに柔軟に対応できる管理会計プラットフォームSactona(サクトナ)がおすすめ
以上、管理会計についてお伝えしました。管理会計は企業の内部意思決定と業績評価のための重要な業務であり、財務会計や税務会計とは異なる独自の役割を果たします。その主な業務には予実管理、原価管理、経営分析、資金繰り管理があり、これらを通じて経営者は客観的な評価、セグメント分析、コスト削減、適切な資金管理を行うことができます。
しかし、管理会計の実施にはコストがかかることや、精度が低いと混乱を招く可能性があるというデメリットも存在します。これらの課題を効果的に解決し、管理会計のメリットを最大限に活用するためには、適切なソフトウェアの導入が不可欠です。
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