M&AとPMIの成功のために

M&A(合併・買収)は、企業の成長戦略や事業再構築の手段として広く活用されています。しかし、その成功には、取引の成立だけでなく、統合後の運営を円滑に進めるPMI(統合プロセスPost Merger Integration)が大変重要です。
M&A実行時には特に買い手側は財務、法務、労務、ビジネス分野に亘って外部専門家を起用して進められますが、M&A成立後は一般的には内部リソースが中心になって統合活動が執り行われます。
PMIは経営体制を含めた組織全般、人事制度を含めた社内運用ルール、業務システム、営業、調達、生産活動の最適化と多岐に亘りますが、本記事では、PMI成功のために最も重要な基盤となる業績進捗の把握、モニタリングを中心に解説します。
1. M&A検討時の留意事項(譲渡側)
(1)事業の譲渡の検討、判断に当たっては会社の中長期的な方向性に加え、譲渡する事業や子会社の短期的、中長期的収益性を把握し、譲渡による譲渡側企業への影響、及び想定売却価格について理解しておく必要があります。配賦している経費の戻りや、本社や他子会社との取引のうち譲渡に伴って継続しなくなるものの金額的影響も想定しなくてはいけません。
また、譲渡後も異動する社員に対しては一定期間本社に在籍、出向の形を取りながら処遇の保障が必要になるケースもあります。また移行期間中に譲渡側企業が当該事業、企業に対して提供してきたサービス等を引き続き提供するようなTSA(Transition Service Agreement)が締結されることもあります。譲渡側でかかる費用の発生が想定される場合は取引コストとして認識しておくべきでしょう。
当該対象の事業に関しての取引内容、財務内容、法務、知財関連等の表明保証が求められます。普段からの適切な事業状況把握、ガバナンス、コンプライアンスによって譲渡後のリスクを最小限にできます。
(2)買い手候補からビジネスデューデリジェンス、財務デューデリジェンス(DD)が行われますが、買い手は株主の変更による事業への影響や事業の将来性を正しく認識するため、取引先別の売上、利益、事業所・店舗・エリア別の売上、利益、製品別売上・利益などの過去推移についての情報開示を求めます。取引先との取引契約においてはChange of control条項(支配権の移動)の規定があり、M&A後の取引に影響が想定される場合もあります。譲渡側がこういった情報について正しくかかる数値を把握できているかどうかでDD時の譲渡会社、対象会社の業務負荷が大きく左右されます。そこで不明点が多いと買い手側にとってリスク要因となりますので譲渡価格にネガティブに働くことになります。
子会社や事業の売却が企業成長の選択肢として積極的に検討されてきていますが、譲渡判断の妥当性、譲渡価格の適正性検証、譲渡による収益インパクトの把握といった観点で、普段から子会社、あるいは各事業については様々な切り口で数値把握できる体制を持っておくことで、タイムリーで適切な事業再編が実行できます。
2. 譲受側の留意事項(PMI)
M&Aは契約の締結をもって完了ではなく、その後のPMIが成功の鍵を握ります。PMIは、M&A後の価値創出を左右する重要なステップであり、統合失敗のコストが膨大となるケースも少なくありません。譲受側には、買収した事業や子会社が譲受企業と一体感をもって、事業を継続、成長できる環境を構築する責任があります。
役職員とのコミュニケーションを通じた信頼関係の構築、事業戦略の共有とKPI(重要業績評価指標)の適切な設定、そして実際の数値フォローによる進捗管理を適切に行われることによって、異なる文化やシステムを持つ組織の統合、新たな目標に向けて一体感を持った取り組みが行われる基盤が形成されます。
以下では、譲受側がPMIを成功させるために必要な具体的な留意事項を詳しく解説します。これらの視点を理解し、実行することで、譲受後の統合プロセスを効率的かつ効果的に進めることが可能になります。
(1) 役職員とのコミュニケーション、経営戦略の合意
PMIの成功は、役職員との効果的なコミュニケーションと、譲受側と被買収側の経営戦略の合意形成にかかっています。M&A後、異なる企業文化や組織体制を調整し、一体となった目標に向けて進むためには、双方の役職員が統合の目的や方向性を正しく理解し、納得することが不可欠です。
特に、被買収側の役職員は統合プロセスで多くの不安を抱えることが予想されます。これには、業務内容の変化や役割の再定義、さらには雇用の継続性に関する懸念も含まれます。これらの不安を払拭し、信頼を醸成するためには、統合後のビジョンを明確に示し、それに基づく経営戦略を早期に共有していく必要があります。
経営戦略の合意は、具体的な計画と目標を伴うものにすべきです。譲受側のトップマネジメントが統合後の戦略を説明する際に、被買収側の役職員の意見や提案を取り入れる姿勢がうかがえることで、双方向のコミュニケーションが円滑になるでしょう。買収後速やかにこのプロセスが実施されることが望ましく、その計画は100日プランと言われます。統合プロセス全体の基盤となり、KPI設定や数値フォローといった実務的な取り組みにも影響を与えPMI成功のための最も重要な位置付けられます。
役職員の信頼を得ることで、KPIの導入や数値フォローといった実務においても協力が得られ、統合の成功率を高めることができます。次の項目では、この合意形成を基盤にしたKPI設定や数値フォローの重要性について掘り下げていきます。
(2) KPIの設定
PMIの成功には、組織全体が共通の目標に向かって進むための指標であるKPI(重要業績評価指標)の設定が欠かせません。適切に設計されたKPIは、統合後の事業運営の方向性を示し、成果を測定する基準となります。しかし、PMI特有の状況では、KPIの設計や運用においていくつかの課題が浮上することが少なくありません。以下では、KPI設定時に特に留意すべきポイントを具体的に解説します。
・KPIに沿った数値が取得できるか:
KPIを効果的に機能させるためには、必要なデータを正確かつタイムリーに取得できる環境が整っていることが前提です。しかし、被買収企業では、過去に必要なデータが一貫して集計されていない場合が多々あります。これは、異なる会計基準やシステム、さらには運用方針の違い等に起因するところがあります。また買収企業とは異なるメッシュ、科目体系、集計フォーマットで行われていて、買収企業との間でのデータ連携が実務的に大きな負担となります。- データギャップの特定
統合前のデータ収集体制を精査し、KPIに必要な数値が不足している領域を特定します。 - 不足データの補完策
必要なデータを補完するためのシステム改善や、代替指標の採用を検討します。例えば、製品ごとの販売データが詳細に把握できない場合、地域や主要顧客グループごとの集計データを代替指標として活用するアプローチが考えられます。このように、利用可能なデータを最大限活用する柔軟性が求められます。
・仮説に基づくKPI設定と稼働後の調整:
PMI初期段階では、情報が不完全であることが多く、KPIの設定は一定の仮説に基づく必要があります。このため、運用が始まった後で、現実と乖離が生じる場合も少なくありません。柔軟に調整を行う仕組みを設けることが重要です。- 仮説に基づく設定の実行
初期段階では、企業の戦略目標や業界標準に基づいてKPIを設計します。例えば、「統合後1年で売上20%増加」という目標を掲げた場合、製品区分別、地域・拠点別といったその達成に必要な具体的指標を設定します。 - 稼働後の見直し
運用を進める中で、目標達成が困難な要因や改善の余地を分析し、KPIを現実に即した形に修正します。これにより、戦略の柔軟性を確保しつつ、目標達成への実効性を高めます。
・現場の理解を促し負担を抑えた集計体制の構築:
KPIの現場運用には、数値設定だけでなく、指標の意義を適切に共有し、負担を軽減する収集体制の整備が求められます。- KPIの意義を共有
各指標が全体目標にどのように寄与するのかを、現場レベルでわかりやすく説明します。これにより、指標に対する現場の意識と責任感を高めることができます。 - 負担軽減のための自動化
データ収集や集計を可能な限りシステム化・自動化することで、現場の手作業を減らし、KPI運用に伴う負担を軽減します。被買収企業において従来から使用されている科目コードやデータ集計方法を変更することは現場に大きな混乱と負担を招きます。買収企業側と情報連携する際には読み替えテーブルを用いた変換を自動で行える仕組みが不可欠となります。経営管理システムを活用することでデータを自動的に統合し、ダッシュボードにリアルタイムで反映させる仕組みも可能になります。
(3) 数値フォロー
PMIの成功には、統合後の数値フォローが重要な役割を果たします。特に、買収側と被買収側で会計システムや基準が異なる場合、統合プロセスの中でこれらの違いを克服することが必要です。統一されたデータ管理を実現し、予実管理やレポート作成の効率を高めるためには、いくつかの課題を解決する必要があります。
・買収側と被買収側で会計システムや科目、メッシュが異なる:
異なる企業間の統合では、使用する会計システムや勘定科目、データの詳細度(メッシュ)が一致していないことが一般的です。このギャップを埋めるための取り組みが統合プロセスの重要なステップとなります。- 会計システムの差異を特定
各企業が使用しているシステムの機能やデータ形式を比較し、統合プロセスでどの程度の変更や対応が必要かを評価します。 - 勘定科目のマッピング
被買収企業の勘定科目を買収側のシステムに合わせるため、科目のマッピングを実施します。この作業を適切に行わないと、統一された財務データの作成が困難になります。 - 統合プラットフォームの導入検討
必要に応じて、異なるシステム間のデータを効率的に統合するためのプラットフォーム(例:経営管理システム)を導入することが選択肢の一つとなります。
・予実集計のタイミングが異なる:
買収側と被買収側で予算と実績(予実)の集計タイミングが異なる場合、データの整合性が取れず、経営陣が必要とするタイムリーな情報提供ができなくなる可能性があります。- スケジュール統一の重要性
両者で異なる集計タイミング(例:月次 vs 四半期)の調整を行い、統一された報告サイクルを設定します。 - 移行期間中の暫定対応
統一が難しい場合、暫定的なデータ統合プロセスを設けることで、最低限の情報共有を可能にします。 - データ遅延リスクの軽減
集計タイミングの違いによるデータ遅延リスクを最小化するため、リアルタイムでのデータ収集・処理が可能なシステムの導入を検討します。
・帳票レイアウトが異なる:
買収側と被買収側で使用している帳票のレイアウトやフォーマットが異なる場合、統合後の報告書作成に追加的な作業が発生することがあります。これを解消するためには、統一基準に基づいた帳票作成プロセスを確立することが求められます。- 統一フォーマットの策定
経営陣や主要ステークホルダーが必要とする情報を整理し、それに基づいた統一フォーマットを設計します。しかしながら現場の慣習や使い勝手を無視した統一フォーマットの作成は、現場からの大きな反発を招くとともに、現場は従前のフォーマットを継続利用しつつ、統一フォーマットにデータ入力するための変換を現場が手作業で行うという過剰な負担を強いることにもなる可能性あるので検討は慎重に行わないといけません。 - カスタムレポートツールの活用
現場で事業に最適なプロセスを、時間を掛けて構築してきている場合、全グループ会社で統一フォーマットを利用することが最適解になるとは限りません。経営管理システムを活用することで、異なるフォーマットのデータを自動的に統合・変換する仕組みを構築することができます。最終的に必要な情報の効率的な見える化のために、従来方式を継続する部分、統合フォーマットで行い部分に区分するなどどういうやり方が最適かをよく検討する必要があります。
3. PMIを成功させる経営管理ソリューション Sactona(サクトナ)
PMIの複雑な経営管理と予算管理の統合を効率的に行うためには、これらの課題を克服する具体的なソリューションが有効です。統合プロセスでのリソース負担を軽減し、迅速かつ正確な予算管理を実現するには、専用の経営管理ソリューションを導入することが効果的です。データの一元管理、自動化、そしてリアルタイム分析を可能にし、多くの企業が統合プロセスで直面する課題に対応できる機能を備えています。(1) 経営管理専用ソリューション Sactona(サクトナ)の活用
経営管理ソリューションは、企業が直面する前述に挙げたような経営課題を解決するために設計されています。Sactonaのように経営管理に専門特化したプラットフォームは、特にPMIの経営管理プロセスを効率化するための機能を提供しています。- 経営管理全体を統合する一元プラットフォーム:
Sactonaは、予算編成、レポート作成、KPIモニタリングといった経営管理全体を一元化することで、導入企業が統合プロセスで直面するデータの断片化や非効率性を根本から解決します。これにより、部門間のデータ整合性を高め、組織全体の効率化を実現します。 - 柔軟な予算編成ソリューションの提供:
Sactonaは、変化するビジネスニーズに対応する柔軟な予算編成機能を備えています。科目、予算実績見込み区分、部門、製品区分等の属性情報をマッピングしてデータ管理するため、異なるフォーマットで集計された情報も共通データベースで把握できます。また統合後の新たな組織構造変更にも柔軟に対応できます。
(2) 自動化機能による作業負荷の軽減
PMIでの予算管理では、複数のシステム間でのデータ集約やレポート作成が大きな負担となります。経営管理ソリューションSactonaに搭載されている自動化機能(オートメーション)を活用することで、こうした負担を大幅に軽減できます。- データ集約の効率化:従来手動で行っていたデータ収集や整形作業が自動化され、人的ミスのリスクが減少します。これにより、より迅速で正確な予算管理が可能となります。
- レポート作成の効率化:システムが自動的にレポートやダッシュボードを生成するため、経営陣への情報提供がタイムリーかつ正確になります。これにより、意思決定の質とスピードの向上をサポートします。
(3) Sactonaの効果的な導入ステップ
Sactonaの導入プロセスは、以下のように計画的かつ段階的に進めることが可能なため、組織に無理なく効果的かつ効率的にシステム統合することが可能です。- システム評価と選定:現行の経営管理システムを評価し、Sactonaの導入が適切であるかを判断します。
- データ移行計画の策定:既存システムからのデータ移行プロセスを詳細に計画し、移行リスクを最小化します。
- 最小限の従業員研修:Sactonaは一般ユーザー向け研修をほとんど必要としません。管理ユーザー向け研修を行う必要最小限のトレーニングプログラムで、Sactonaをご利用頂けます。
- 運用開始と継続的サポート:システムの本稼働後も、継続的なサポートを受けて頂くことで、運用効率をさらに向上させます。経営管理プロセスの変更や組織変更等にも柔軟に対応することが可能です。